将来の約束

 父親と時雄は暫くその機関破裂のことに就いて語り合った。不図《ふと》、芳子は、「お父様、家では皆な変ることは御座いません?」「うむ、皆な達者じゃ」「母さんも……」「うむ、今度も私が忙しいけえナ、母に来て貰うように言うてじゃったが、矢張、私の方が好いじゃろうと思って……」「兄さんも御達者?」「うむ、あれもこの頃は少し落附いている」 かれこれする中に、午飯《ひるめし》の膳が出た。芳子は自分の室に戻った。食事を終って、茶を飲みながら、時雄は前からのその問題を語り続《つ》いだ。「で、貴方《あなた》はどうしても不賛成?」「賛成しようにもしまいにも、まだ問題になりおりませんけえ。今、仮に許して、二人一緒にするに致しても、男が二十二で、同志社の三年生では……」「それは、そうですが、人物を御覧の上、将来の約束でも……」「いや、約束などと、そんなことは致しますまい。私は人物を見たわけでありませんけえ、よく知りませんけどナ、女学生の上京の途次を要して途中に泊らせたり、年来の恩ある神戸教会の恩人を一朝にして捨て去ったりするような男ですけえ、とても話にはならぬと思いますじゃ。この間、芳から母へよこした手紙に、その男が苦しんでおるじゃで、どうか御察し下すって、私の学費を少くしても好いから、早稲田《わせだ》に通う位の金を出してくれと書いてありましたげな、何かそういう計画で芳がだまされておるんではないですかな」「そんなことは無いでしょうと思うですが……」

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