私は女……女です

「それは出来ん。監督上出来ん。二人の将来の為めにも出来ん」「それでは田舎に埋れてもようおます!」「いいえ、私が帰ります」と芳子も涙に声を震わして、「私は女……女です……貴方さえ成功して下されば、私は田舎に埋れても構やしません、私が帰ります」 一座はまた沈黙に落ちた。 暫くしてから、時雄は調子を改めて、「それにしても、君はどうして京都に帰れんのです。神戸の恩人に一伍一什《いちぶしじゅう》を話して、今までの不心得を謝して、同志社に戻ったら好いじゃありませんか。芳子さんが文学志願だから、君も文学家にならんければならんというようなことはない。宗教家として、神学者として、牧師として大《おおい》に立ったなら好いでしょう」「宗教家にはもうとてもようなりまへん。人に対《むか》って教を説くような豪《えら》い人間ではないでおますで。……それに、残念ですのは、三月の間苦労しまして、実は漸《ようや》くある親友の世話で、衣食の道が開けましたで、……田舎に埋れるには忍びまへんで」 三人は猶《なお》語った。話は遂に一小段落を告げた。田中は今夜親友に相談して、明日か明後日までに確乎《かっこ》たる返事を齎《もた》らそうと言って、一先《ひとま》ず帰った。時計はもう午後四時、冬の日は暮近く、今まで室の一隅に照っていた日影もいつか消えて了《しま》った。 一室は父親と時雄と二人になった。「どうも煮えきらない男ですわい」と父親はそれとなく言った。「どうも形式的で、甚だ要領を得んです。もう少し打明けて、ざっくばらんに話してくれると好いですけれど……」「どうも中国の人間はそうは行かんですけえ、人物が小さくって、小細工で、すぐ人の股《また》を潜《くぐ》ろうとするですわい。関東から東北の人はまるで違うですがナア。悪いのは悪い、好いのは好いと、真情を吐露して了うけえ、好いですけどもナ。どうもいかん。小細工で、小理窟《こりくつ》で、めそめそ泣きおった……」「どうもそういうところがありますナ」

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