ふと二人の関係に就いての疑惑が起った

「見ていさっしゃい、明日きっと快諾しゃあせんけえ、何のかのと理窟をつけて、帰るまいとするけえ」 時雄の胸に、ふと二人の関係に就いての疑惑が起った。男の烈《はげ》しい主張と芳子を己《おの》が所有とする権利があるような態度とは、時雄にこの疑惑を起さしむるの動機となったのである。「で、二人の間の関係をどう御観察なすったです」 時雄は父親に問うた。「そうですな。関係があると思わんけりゃなりますまい」「今の際、確めておく必要があると思うですが、芳子さんに、嵯峨行《さがゆき》の弁解をさせましょうか。今度の恋は嵯峨行の後に始めて感じたことだと言うてましたから、その証拠になる手紙があるでしょうから」「まア、其処までせんでも……」 父親は関係を信じつつもその事実となるのを恐れるらしい。 運悪く其処に芳子は茶を運んで来た。 時雄は呼留めて、その証拠になる手紙があるだろう、その身の潔白を証する為めに、その前後の手紙を見せ給えと迫った。 これを聞いた芳子の顔は俄《にわ》かに赧《あか》くなった。さも困ったという風が歴々《ありあり》として顔と態度とに顕《あら》われた。「あの頃の手紙はこの間皆な焼いて了いましたから」その声は低かった。「焼いた?」「ええ」 芳子は顔を俛《た》れた。「焼いた? そんなことは無いでしょう」

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